アートセラピーで語られる「アート」という言葉は、一般の方が抱く「アート」の定義と、ずれがあるように感じます。
そして、「アートセラピー」と言っても
近年は、いろいろな方法、いろいろなレベルでの関わり、いろいろな目的で行われているものがあり、一言で説明することができません。
まずは、「アートセラピー」の始まりの歴史から、二つの方向性からの定義をご紹介します。
1、アート アズ セラピー
と呼ばれるもので、こちらはアート表現のプロセス自体が癒しになるという考え方です。
アートセラピーにおける作品づくりは、
私たちが美術の授業などで何度も体験してきた
第3者からの評価を前提にしたものではなく、
個人の自由な表現を尊重していくので、表現力、完成度などを期待するものではありません。
表現のプロセスでおこってきたことを振り返ってもらったり、
出来上がった作品に対して、自分自身でそれをどう受け止めるのかを話してもらったり、
それぞれの内側でおこってきたやりとりを見ていきます。
セラピストやグループメンバーなど、他者からの目線は、
一方的な評価や批判ではなく、
作品自体をその人の一側面ととらえて尊重し、大切に扱いながら、
共感したり、別の目線からの感想を伝え合ったりしていきます。
多くの発達障がい、あるいは精神科の施設でおこなわれている 単なるアート活動 においても、
同様の試みがあるので、
「レクリエーション活動としてのアート」と「アートセラピー」とのの違いが、しばしばわかりにくくなる場合もあります。
2、アートサイコセラピー
と呼ばれるアプローチは、精神療法を発端にして、無意識の活動を探る一つの方法としてアートが用いられるものです。
アート表現として目に見える形になる前の段階におけるイメージは、
夢分析と同様に、個人の無意識につながる領域であり、
アートセラピストは、無意識領域に閉じ込められているクライアントの内的世界の外在化に、アートを用います。
ここでは、言葉として意識で扱える前の「イメージの世界を、絵を描いたり造形で表現」してもらい、
その作品の世界をご自身が納得のできる言葉に変えていきます。
従来の心理療法は言語のやりとりだけでしたが、アートを用いてイメージの世界を深めて、出しやすくしていくことで、治療を促進させ、深い気づきに導いていくことができます。
では、ここで「スクリブル(ぐるぐる描き)」という方法をご紹介します。
「スクリブル」はアメリカにおけるアートセラピーの母と呼ばれる存在の人
マーガレット・ナウムブルグによって導き出された方法です。
意味のない自由な線をぐるぐると画用紙に描いていきます。
画面全体に線が描けたら、
画用紙をじっと見つめて、その中に何かの絵が浮かんでこないかを見つけていきます。
画用紙は上下、左右動かしても構いません。
なにか見つけられたら、クレヨンで見えてきたものを浮き上がらせるように描き足します。
不要な線は塗りつぶし、新たな線を書き加えたりして、浮きあがってきたものが、よくわかるように描きたします。
描き出したものについて、セラピストと話をしていきます。
子供の頃、壁の木目の模様などを見ていると、人の顔に見えてきたりしたことはありませんでしたが?
漠然とした心の内側の世界を外へ映し出すために、
ガイドとなる線を用いて、そこに浮き上がらせ、それを鮮明に描き出し、
心の内側にあるものを映し出す方法です。
出てきたイメージは、とても深い層からのものであることがほとんどなので、
とても慎重に扱われます。
セラピストは、
クライアント自身が描き出したものから、
気づきやヒントが得られるように、言葉に変えていく作業を手伝います。
この方法は、絵のスキルはまったく関係ありません。
誰にでも取り組めて、苦手意識を感じさせずに行えます。
もともと、この方法は美術教師をしていた彼女の姉(妹?)のフローレンス・ケインが
子供の創造力の開発に用いていたやり方でしたが、
無意識の層のメッセージを描き出す方法として、アートセラピーに用いるようになりました。
このアプローチは前述の
2、アートサイコセラピーのやり方のひとつとして始まりました。
私たちが、日常に絵を描くときのように、
「これを描こう」など目的を持って描くのではなく、
そこに立ちあらわれたものを掴み取り、表現していく方法です。
出来上がりのバランス感や、配色などを、頭で考えて描いていくのではなく
こころの赴くまま、手が動くままに描いていく
これがアートセラピーのときの表現方法です。
また、誰かの評価を気にするのではなく、
ただ、自分の心の声に沿って描いていく、
そのようなものでもあります。
他者の評価ではなく、自分のために描く、創るという事をやっていきます。
そのために、安心して自分のために表現するのには、アートセラピストの存在です。
アートセラピストがあなたの表現する過程を守っています。
何か見本があり、それをまねて作るという行為でなく
自由で創造的なアート表現するときには、自分の内面の探索を必要とします。
内側の世界は、楽しく美しいものだけでなく
怒りや悲しみの感情など、あまり触れたくないもの、記憶の奥底にしまい込んでいる辛い思いもあります。
自分でもまったく気づいていない気持ちもあります。
そんな世界に1人でふみこむことは、ちょっと危険な事です。
自分でも気づいていないものもあるので、
言葉も通じない、全く始めての外国へ、たった一人で旅をするような、
あるいは、始めての場所で、前の見えない暗闇を1人で歩いていくようなものです。
冒険好きの人ならば進めそうですが・・・。
そんなとき
アートセラピストは、暗闇の中の足下にあかりを灯す役割だったり
恐くて進めなくなった時、側にいて、大丈夫と声をかけたり、
その先の心の宝物を見つけるための、励ます役割をしていきます。
より深い自分と向かい合う為には、アートセラピストの存在は欠かせません。
社会生活を送っていると、楽しいことばかりではありません。
納得がいかないことに腹が立つ!
理解してもらえず悲しい・・。
などなど、さまざまな感情が沸き起こります。
↓
このような感情はあまり表に出してはいけない、と誰しも思います。
がまんしよう!(私が我慢すればなんとか丸くおさまる)
早く忘れよう!
と、自分の気持ちを抑えたり、今ある感情を見ないようにしていきますが
どんなに気持ちを押さえても、たとえ、記憶からなくなっても
「感情」が消えてしまうことがありません。
溜まった感情は行き場をなくして、或る日突然爆発してしまったり
体の病気として現れてきます。
アートセラピー(アーツセラピー)を通して表現していく事で
日常生活で起こっている様々なストレスを発散し、
過去の傷ついた体験からくる、心のアンバランスを徐々に解消していきましょう。
ネガティブな感情の解消だけではなく、
意識の奥深くにつながっていき、無意識の扉を開けていくので
・思ってもみなかった、自分が本当にやりたい事に気づける。
・作品や表現そのものが、自分自身では気づいてない可能性を示してくれる。
・アート表現の課程が自分自身の行動を変えるきっかけになる。
・創造性を高めて、より自分らしくいきるサポートとなる。
・グループで行う場合は、他者とのコミュニケーションが深まる。
などのメリットがあります。
前述のように、アートセラピーはセラピストの守りの中で行われます。
アートが苦手になってしまった方の多くは、
子どもの頃に、自分が作ったものを評価されたり、不本意な扱いを受けた体験を持っています。
子どもにとって表現されたものは、
その子の気持ちそのもの、その子自身を表していますが
大人からの一方的な価値基準で否定されると、
自分自身そのものを否定されている気持ちになり
アート表現することがきらいになってしまいます。
アートセラピーの場では、
評価もなく、安心して自分がしたいことを表現することができます。
表現した人の気持ちそのものがそこに現れますから、
アートセラピストはそれを尊重しながら、
その人自身が望む表現へと近づけるようにサポートします。
一般的なアート表現の場では、作品を鑑賞する人の存在がつねにありますが
アートセラピーでは、あくまでも自分のためにだけ制作し表現していきます。
自分に評価を与えない環境で(アートセラピストの守りの中)
自由に自分を表現し、味わい、楽しんでいきます。